デザイン・テクノロジーによるサステナビリティの実現 | Authority : Wired Vision Blogs
2012-07-20
われわれは現在、最先端のデジタル テクノロジーを経験しています。われわれが生きるこの時代は、サステイナブル デザイン(環境配慮型設計)がもはや無視できない急務となり、テクノロジーの進化で、以前は想像もできなかったPCが判読可能な表現(デジタルデータ)によりビジョンを描き、伝達することが可能になっています。
しかし、最近の研究では、建設業界の効率の悪さと無駄の多さがたびたび指摘されています。1つ目は建物がエネルギー全体の35%を消費しているということ、2つ目はCO2排出量の35%は建物からのものであり最大を占めること、そして3つ目は建設業界で行われている仕事の35%は無駄であることです。
サステイナブル デザインを行なうことは、すなわちわれわれの将来を継ぐ世代の暮らしを安心で安全な場所こそが良い世界だ、というビジョンを明確にすることです。サステイナビリティに配慮してデザインすることは、地球を愛することと同じ意味なのです。
サステイナブル デザインに取り組む設計者のアイデアを、現実のビジョンに転換するその過程で最良な環境は、コミュニケーション デザインです。 アイデアが次第に具体化するに従い、その視覚化とシミュレーションが必要になります。設計者はコンセプトから詳細設計までの各段階で、提案と検討を繰り返し、要件を満たしているかどうかを評価します。美しさ、性能、コストといったさまざまな要素が各段階で検討されます。設計の進行とともに次々と決定がくだされ、選択肢が消える一方で、新たな選択肢が現れます。デザインを伝達する能力、すなわち提案されている内容を視覚化しシミュレートする能力は、設計者が最良の選択を行なうのに役立つ最適な情報を提供するものでなければなりません。
われわれはまた、コミュニケーションにより、こうしたビジョンの物語を他者に伝えます。伝える相手は、プロジェクトを承認し使用する建築主、プロジェ クトを利用することになる地元の住民、プロジェクトが社会のニーズに合致するかどうかを見極める事業決定者、プロジェクトに融資する銀行、工事を担当する施工業者などです。視覚化とシミュレーションは、こうしたコミュニケーションを成功に導く鍵となります。
BIM ( Revit Architecture ) 3D View ( i think architecture inc.)
最先端のデザイン テクノロジーとは、具体的に言うと例えば3次元(3D)のデジタル モデリング テクノロジー技術があげられます。このテクノロジーを活用することで、実際に製品や建築物といった現実のモノができあがる前にPCの画面で、設計内容を視覚化し、シミュレートし、分析することができます。
そうした結果、われわれはアイデアをデザインの中に具現化するようになりました。デザインをデジタル化し、モデルやシミュレーションを使って再現するようになりました。このデジタルデータをもとに、デザインが予想通りに機能するか、事業要件を満たすかといったことについて、検証方法を確立し、評価と判断をくだせるようになりました。
BIM(Building Information Modeling)のもつパフォーマンス能力に結びついたモデリング機能は、設計段階における環境解析の重要なコンセプトです。BIMはデザインを、外形と属性情報の両方を備えたモデルとして再現しているため、解析ツールで自らの診断の影響を予測できます。エネルギーに関するモデルを作れば、完成する建物の機能を検証するのに役立ちます。エネルギーに関するモデルを作ることは、サステイナブルな建物の評価システムの多くで鍵を握る要素となっています。
このBIMテクノロジがサステイナビリティを実現する具体例として、建物の窓の位置が影響する室内の採光や温度を事前にシミュレートすることで、建物のエネルギー消費を最適化したり、建築仕様を満たす建材からより環境にやさしいものを容易に選択することができ、無駄の軽減につながります。また、デジタルからモックアップできるので、材料などの削減もできます。
ウインド シミュレーション(i think architecture inc.)
BIMを採用するメリットは、プロジェクトを視覚化する能力が高まることです。成功した事例の協働作業(コラボレーション)でいずれも基本に根ざすものは、コミュニケーション能力です。正確さと即応性をそなえたBIMモデルを利用することで、 修正案や代替案の視覚化が可能となり、設計図の見方にアマチュアの建築主でさえ決定したことがどのような影響を与えるのかを容易に理解できるようになります。プロジェクトの早い段階で正しい判断をくだすことは、成功するうえで何よりも重要です。繰り返される決定の記録の共有をBIMが可能にすることで、関係者が共通の認識を持たないために生じる意思決定の遅れや勘違いが回避され、プロジェクトの進行が大幅に加速するのです。
次に上げるBIMのメリットは、デジタルモデルで設計や建設に関する全工程を管理できる点です。バーチャル環境で複数の設計分野にまたがる作業を調整する能力は、時間とコスト、建設現場での工事リスクを大幅に削減します。特に4D、すなわち「時間」の要素も含めて検証する場合、現状では多くの請負業者が作業予定を組むために、足場やクレーンなどの建設用機材の調達に多大なエネルギーを費やしています。しかし、早い段階における問題の認識と理解で、より迅速かつ正確に解決策を提示する能力があれば、問題発生に伴う度重なる情報の要求や工事の変更を低減できるでしょう。
3つ目のメリットは、実際に完成する建築物を正確に表現するバーチャル モデルを作成する能力です。これによって、鉄筋やコンクリートの構造、建築物の熱性能、サステイナブル デザイン性能から居住者や利用者の安全性の検討など、あらゆる分析が可能になります。非常に複雑な問題の解決には、往々にして複数分野の協働が必要になります。たとえば採光ひとつを例にとっても、建築設計者は窓の配置や間取り、構造設計者は遮へい構造物、設備設計者は照明装置の照度設計、増加する熱量負荷への対応にそれぞれが取り組んでいます。BIM環境であれば、迅速かつ正確に新しいアイデアを容易に作成、検証できるようになり、複数分野の協働作業をこの上なく効果的に行うことができるようになるのです。
フロントローディング(Autodesk社)
フロントローディングとは、一般的に設計初期の段階に負荷をかけ(ローディング)、作業を前倒しで進めることをいいます。
BIMのアプローチ手法では、設計初期に3次元建築物のモデルと必要な属性情報の作り込みを行い、情報を活用したシミュレーションや検証を行うことで、初期段階に負荷をかけて、事前に設計検討や問題点の改善を図ることにより、早い段階で設計品質を高めることが可能です。
BIMアプリケーションは、モデルの整合性を維持するという明確な機能があります。協働作業による3次元モデルをバーチャルに可視化する 3D干渉チェックやシミュレーションによる検証によって容易に設計品質の向上を図ることができるようになります。これにより、設計段階や施工現場で頻発する手戻りによるスケジュールの延長や、無駄なコストの発生を事前に防ぐことが可能になります。
実りあるプロジェクトの成功要因は「相互の理解」の構築あり、こうした例では、設計者、エンジニア、施工業者およびデリバリーが真の目的を共有し、リスクの回避と軽減を共通の目的とすることです。法規上、契約の問題により設計者やエンジニアが請負業者から切り離されていることありますが、今後はIPD(総合プロジェクト推進法 : Integrated Project Delivery)と呼ばれる新たな契約形態がこうした共通の目標をうまく連携させて、リスクと報酬の意識も共有するプロジェクトチームを生みだす必要があります。これらは、従来の建築フェーズの定義を変化させ、多くの設計者とエンジニアがこれまでに行なってきた以上のデータの共有が必要となるのです。
プロジェクトチーム・フェーズ(Autodesk社)
設計者が正確な専門的判断力により、情報データ交換時のプロセス チェックを行うことで、プロジェクトチーム全体を統括し、仕事のリスクと報酬を共有させることができれば、設計者と請負業者の関係、そして最終的には建築主との関係も根本的に変わっていくでしょう。素晴らしいソリューションと評価されたデザイン建物であっても、最もそれが必要な段階、つまり実際に設計する段階で、建築主が意思決定に積極的に関与できないという現状があります。統合されたチームは、建築主が設計段階に積極的に参加し、単に初期費用にとどまらず、工事日程やパフォーマンスといった目標の設定にも建築主が関与できるようにします。同様に、設計と建築の専門家にプロジェクトの結果に対するリスクと報酬を共有させることで、彼らが責任の追及や転嫁ではなく結果や解決策への注力を維持できるようにします。BIMモデルを利用した共有と協働のコンセプトと能力が成功のチャンス につなげるには、統合されたチームによるこうした環境が絶対的に不可欠なのです。
IPDは、建設業界で生まれた新たなビジネスモデルで、チーム全体が初期の段階から協力し、最も有効な決定を共同でくだすことが可能になります。契約によって築かれた新たな関係であれ、永続的な事業体制であれ、統合されたチームはBIMテクノロジーを協働プロセスの全局面に組み込むことでこれを強化できます。このシステムおけるBIMの役割とは、プロジェクトチームが共通の協働環境で情報を利用し、設計意図の理解を深め、効率を改善して、プロジェクトの真の成功とチームの成功を支える新たな協働体制を実現できるようにすることにあります。
真の協働(コラボレーション)によるIPDプロセスの使用が広く受け入れられるようになると、設計者の役割も本質的に変化します。設計は、豊富な知識を持つプロフェッショナルチームの成果物となり、各メンバーが実際に貢献し得るものになります。IPDプロセスが小規模なプロジェクトにもどんどん使われるようになると、設計者のリーダーシップが、建築設計という職能を充分に活かせるようになります。施設建設プロジェクトと個人住宅では、どちらもBIMテクノロジーの恩恵を受けますが、両者ともに同等のIPDプロセスの恩恵を受けるとは限りません。しかし、たとえ個人住宅のオーナーであっても、エネルギー シミュレーションや建設資材の節約など、BIMテクノロジーを通じてコストの軽減などの恩恵を受けることができます。
1st IPD Prpject in New England ( Trapelo Road Project ) | Autodesk : BIMの効能とIPD
BIMワークフロー(Autodesk社)